ナルシストは視覚における錯覚をしにくい?!
皆さんは,性格によって見えている世界が違うと考えたことがありますか? 例えば,「あの人は自己中心的で周りが見えていない!」というように,見えている世界が性格によって違うということを,私たちは経験上知っています。
今回ご紹介する研究は,ナルシストは視覚における錯覚をしにくいという内容です。 これは2011年に九州大学の妹尾先生たちが行った研究で,成人30人に対して錯覚を起こさせるような動画を40秒間見せたあと,3種類の人格テストを行ったものです。被験者が動画を見る際は,いつ・どのくらい・どのような強度で錯覚を感じたかということも評価しました。その結果,ナルシストであるほど,見たものに錯覚しにくいことが分かりました。
ところで,被験者が感じる錯覚のことを,専門用語でベクションと言います。例えば,下の図のような時に私たちはベクションを感じます。
なぜナルシストはこのベクションを感じにくいのでしょうか? 先行研究において,自己中心的な人ほど,場所に依存しない方法で環境を知覚するということが分かっていました。これは,ロッド・アンド・フレームテストで説明されています。 下の図を見て下さい。左と中央の図は棒線が真っすぐで,右だけ棒線が傾いています。しかし,人によって中央の図の棒線は傾いて見えます。
中央の図の棒線が傾いて見えるのは,棒線を囲む長方形が傾いているからです。つまり,周りの環境によって見ている物の見え方が変わってくるのです。自己中心的な人ほど,長方形と棒線を切り離して認知しますが,自己中心的でない人は長方形と棒線をセットで認知するのです。 この先行研究を基に今回の研究結果を考察すれば,高い自己中心性を持つナルシストは周りの環境に左右されることなく見ている物を知覚することができます。従ってベクションを感じにくいということになります。
今回の研究は,ナルシストとベクションの負の関係を明らかにしたが,この他にも年齢とベクション・数字とベクション・感情とベクションなどの関係についても研究されています。九州大学の妹尾先生のホームページにアクセスすると,ベクション研究の概要やベクションを引き起こす動画を見ることができるので,一度アクセスすると面白いでしょう。
出典:Seno, T., Yamada, Y., & Ihaya, K. (2011). Narcissistic people cannot be moved easily by visual stimulation. Perception, 40, 1390–1392.
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